Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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続 「昨日、悲別で」
 「昨日、悲別で」(第595回)と題して、私は以下のように書いた。 2005年8月9日のことである。
 「昨日、悲別で」・・倉本聰脚本によるTVドラマ、1984年に上映。北海道の歌志内市と上砂川町(ドラマの中では架空の街、悲別町)と東京を舞台に、仕事を求めて東京に出た若者と、故郷に残って地元で働く若者の心の交流を描いたとある。 私は、このドラマを見たわけではない。ないが・・しかし、「昨日、悲別で」という短い言葉の列は、それにしてすでに、一巻の哀感のドラマであり、一幅の寂寥の絵画である・・その哀感と寂寥に魅了され・・知らず、その世界に引き込まれていく・・。片雲が高く飛び・・澄んだ碧空の下には広大な原生林の森が広がっている・・その森に囲まれた、ささやかな小さな街・・昨日、悲別で・・いったい何があったのか・・・。そこには・・今はなき、なつかしき日本の原風景がある。
 そして今日、このドラマのことを「もう少し」だけ知った。
 北海道の廃れた小さな炭坑町で生まれた田舎育ちの青年、竜一(天宮良)が、近所に住む映画好きのおじさんの影響でダンスミュージカルにカルチャーショックを受け、自分も一旗揚げようと上京する。昼間はダンスのレッスン、夜はスナックパブのショータイムに出演する傍ら、チャンスを伺っていたが、どうもうだつがあがらない。同期の奴等はどんどんチャンスをものにし、スターへの階段を昇っているというのに・・。そんな時、或るオーディションで竜一は偶然に同郷の女の子、ゆかり(石田えり)と再会する。ゆかりは高校時代不良娘のレッテルを貼られ、悲別を逃げ出した訳だが、その後、竜一と同じダンサーを夢見て東京に出ていた。しかし、田舎育ちの彼女は、東京に当てなどなく、生活苦と資金難から自らの体を売ることで生計を立てていたのだ。やがて、それが政界をも巻き込んだスキャンダルに発展し、マスコミによって汚名を着せられた彼女は深く傷つき、逃げ場を探して故郷に戻る。そんな彼女を、同じく夢途絶えた竜一を始め、悲別の昔の仲間が温かく迎え入れ、互いに傷つきながらも励ましあっていく・・・。
 ドラマの冒頭は竜一の独白から始まる。
去年の春まで悲別にいたんだ
北海道の砂川って町から南に入った炭鉱町でね
昔は良かったけど今はもう駄目さ
炭鉱はつぶれる寸前だし 国鉄だってひどい赤字で
もうじきなくなるっていう噂がある

悲別ってのは元アイヌ語でね ケナシ別から
来たって説とカナウシ別から来たって説と
どっちでもいいやそんなこと
そこの高校を出て東京に来たんだ

今この店で働いてる 働きながらタップを習ってる
ご機嫌だよ東京は ほんと最高
駅長や与作を呼んでやりたいね
あいつら一生あっちでやっていく気だ
思っただけでも落ち込んでくるぜ

あっちのことは忘れたいんだ 山も炭住も雪も川も
それとそれからお袋のことも

でもそのお袋がさ 手紙をよこすんだ
見ったくない字でさ しまんない手紙を
ほんとにしまんなくって 涙が出てくる
昨日、悲別で キツネがひかれた
昨日、悲別で 女の子が生まれた
昨日、悲別で 飲み屋がつぶれた
昨日、悲別で 昨日、悲別で・・・

 ちなみにドラマのテーマソングは風が歌った「22才の別れ」であり、ロケに使われた若者達のたまり場、「悲別ロマン座(旧住友上歌志内炭礦会館)」の前には倉本聰の銘になる以下の看板が淋しく立っているという。
昨日悲別で
少年が生まれ
今日悲別で
少女と出逢った
明日悲別に
小さな灯がともる
     「昨日、悲別で」
       倉本 聰
 かくして架空の街「悲別」の物語は日本の未来を眺めながら、ひそやかに、だがたくましく、いまなお続いている。

2014.07.10


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