やっぱり気になるのは日本国憲法の問題です。この六十何年間、戦争という形で、日本国民の名で誰も他国の人を殺していないし、日本人の中で死んだ人もいません。憲法九条を変える議論も、テレビで見るイラク戦争のように、戦争を始めたら誰もがすぐにああなる可能性を持っていることをまず考えて欲しいのです。僕は、太平洋戦争のおしまいの頃には物心がついていたので、戦争のことは理解しています。それで育ってきたという経験もあって、はたから見るとちょっと入りこみすぎと言われるかもしれませんが、やはり僕は、憲法が変わるのを見て死にたくないと思います。
芝居、小説、エッセイ、これから書けるだけ書いていきたいと思いますが、常に「あの戦争って何だったのか? いったい誰が得したのだろう?」ということを書き続けるしかないと思っています。
書いたのは作家、劇作家で1972年、「手鎖心中」で直木賞を受賞した「井上ひさし」である。井上はこの言葉を遺した3年後の2010年4月9日に、この世を去っている。それはまるで現在の日本の姿を見据えていたかのような不可思議な啓示に満ちている。
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