Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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100年後の皆さんへ
 これも共時性のひとつの証であろうか。なにげなく読んだ本の中に次の文章を見いだした。
 やっぱり気になるのは日本国憲法の問題です。この六十何年間、戦争という形で、日本国民の名で誰も他国の人を殺していないし、日本人の中で死んだ人もいません。憲法九条を変える議論も、テレビで見るイラク戦争のように、戦争を始めたら誰もがすぐにああなる可能性を持っていることをまず考えて欲しいのです。僕は、太平洋戦争のおしまいの頃には物心がついていたので、戦争のことは理解しています。それで育ってきたという経験もあって、はたから見るとちょっと入りこみすぎと言われるかもしれませんが、やはり僕は、憲法が変わるのを見て死にたくないと思います。
 芝居、小説、エッセイ、これから書けるだけ書いていきたいと思いますが、常に「あの戦争って何だったのか? いったい誰が得したのだろう?」ということを書き続けるしかないと思っています。


 書いたのは作家、劇作家で1972年、「手鎖心中」で直木賞を受賞した「井上ひさし」である。井上はこの言葉を遺した3年後の2010年4月9日に、この世を去っている。それはまるで現在の日本の姿を見据えていたかのような不可思議な啓示に満ちている。
 さらにそのあとに続けて以下のメッセージが配されている。

「100年後の皆さんへ、僕からのメッセージ」

 100年後の皆さん、お元気ですか?
 この100年の間に、戦争はあったでしょうか?
 それから、地球が駄目になるのではなく、
 地球の上で暮らしている人間が、
 駄目になってはいないでしょうか?

 僕たちの世代は、それなりに
 一所懸命に頑張ってきたつもりですし、
 これからも頑張るつもりですが、
 できたら100年後の皆さんに、
 とてもいい地球をお渡しできるように、
 100年前の我々も必死で頑張ります。
 どうぞお幸せに。
                    井上ひさし

 「ひょっこりひょうたん島」の世界を創りだした井上ならではの構想力とペーソスここに極まれりの感懐しきりである。死してなお語りかけてやまない。

2014.06.23


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