思考停止の様式 |
株や為替等のトレーダーが使う売買手法として、「順張り型トレード」と「逆張り型トレード」という2つの方法がある。
順張りとは市場の流れに逆らわずに勢いに乗って売買するトレード方法であり、逆張りとは逆に勢いの反転を予測して市場の流れに逆らって売買するトレード方法である。どちらにも相応の利点欠点があり、軽々に優劣を断ずることはできないが、一般的に経済が安定している場合は先の予測がつきやすいため逆張りが優勢を占め、逆に経済が不安定で先の予測がつきにくい場合は順張りが優勢を占める。逆張り型がさまざまな経済指標に目をくばり思考をめぐらさなければならないのに対し、順張り型は思考めぐらす必要はなく、市場の流れに追従するだけでよく、逆にあれこれと頭を使うことは禁物である。
かっての兜町には相場師と言われる相場のプロがいたが、コンピュータ取引が隆盛を極めるにしたがって引退を余儀なくされ、やがて表舞台から消えていった。相場師の大半は逆張り型であり、独特の相場勘を使って、後世に語り継がれる大勝負を繰り広げた。「オマハの賢人」と称される米国のウォーレン・バフェットなども、この逆張りで成功した数少ない投資家であり、今なお表舞台で活躍している。
以上の構図はまた社会世相の行動様式に相似する。つまり、先行きの予測が困難な現代社会では人々の行動様式もまた順張り型が主流となる。それは、かってビートたけしが考案した「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という標語に示された行動様式でもある。順張り型トレードが思考をめぐらさずに、市場の勢いに追従するだけで、頭を使うことは禁物であるのと同様、現代社会ではとにかく時流(トレンド)に乗ることが優先される。考えて立ち止まっていようものなら時代の落伍者の烙印を押されかねない。ことが株式トレーディングの方法ならまだしも、社会の行動様式としての「思考停止こそが賢い生き方」という価値観の優劣には熟慮を要する。
今まさに「頭を使わないこと」が日本の将来に何をもたらすのかを、「頭を使って」懸命に考えなければならないのである。 |
2013.05.14 |
|