末世の期限 |
空海は入定に先だつ4ヶ月前、11月15日に弟子たちを集め「私が入滅するのは3月21日寅の刻(午前4時ごろ)である。弟子たちよ、悲しんで泣いてはいけない。」と宣告した。3月15日には再び弟子たちを集め「私は兜率天へのぼり、弥勒菩薩の御前に参るであろう。そして56億7000万年後、私は必ず弥勒菩薩とともに下生する。」と遺告した。
弥勒は釈迦の弟子で、死後、天上の兜率天に生まれ、釈迦の滅後、56億7000万年後に再び人間世界に下生し、出家修道して悟りを開き、竜華樹の下で三度の説法を行い、釈迦滅後の人々を救うといわれている。空海は真の教えを求めて山野を彷徨していた若き日より兜率天の弥勒菩薩のもとへ行くことが生涯の目標であったのだが、それは歳を経ても微動だにゆらぐことはなかったのである。
巷間しばしば「世も末だ」と言われ、末法思想が吹聴される。だが以上の経緯を鑑みれば「末世」は当分は来そうもない。56億7000万年後では、もはや宇宙の寿命に匹敵する時間である。だが超人空海にしてみれば、かような時間は刹那の夢の間なのかもしれない。してみると「世も末」という言葉は「南無阿弥陀仏」同様、こころを安らげる「真言(マントラ)」のごときものかもしれない。 |
2012.10.22 |
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