今は亡き反骨の哲学者、大森荘蔵(1921年〜1997年)は、我々が日常的に考えている「過去」・「現在」・「未来」と並べられた「線形時間」は存在しないことをあきらかにした。
存在しない線形時間を存在するとしたために、「時間は過去→現在→未来と流れる(経過する)」という考え方が生まれたのである。
なかんずく現在は「運動を伴った」、過去、未来とは本質的に異なる特殊な空間であって、線形時間とは「運動を伴わない」静的な時間概念でしかない。
さらに、線形時間が存在しないことは「運動の軌跡が存在しない」ことであり、「アキレスと亀のパラドックスは、運動を伴わない静的な線形時間と運動を結びつけたことが原因であり、存在しない運動軌跡を時空に思い描いたことによる」と簡潔にして明瞭に証明してみせたのである。
しかして大森最期の著作は、他界する前年に完成した「時は流れず」であった。
※アキレスと亀のパラドックスとは
紀元前5世紀、ギリシャの哲学者、ゼノンが提唱した運動の不可思議に関するパラドックスであり、足の速いアキレスはどんなに頑張って走っても、自分より先に出発した鈍足の亀に追いつくことができないというもの。
なぜならアキレスが亀が今いる所まで辿り着いた時、亀はそれより少し先まで行っている。アキレスがその地点まで行った時には、亀はまた更にその少し先まで行っている。アキレスがその地点まで行った時には、亀はまた更にその少し先まで行っている。アキレスがその地点まで行った時には、亀はまた更にその少し先まで行っている・・・ということで、アキレスは永久に亀に追いつけないのである。
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