春爛漫、長く寒い冬が過ぎ去り、桜の花が一斉に狂ったように咲きこぼれる宵、「春宵」の季節がやって来た。
春宵は、「古代と現代」、あるいは「生と死」が、エマルジョン(混交)しているようなミステリアスで、幻想的な、異次元空間である。
それは、数学者、岡潔(1901〜1978)の随筆「春宵十話」に、また日本画家、東山魁夷(1908〜1999)、加山又造(1927〜2004)、近くは中島千波(1945〜)の描いた春宵(満開の夜桜に浮かぶ、霞がかったおぼろ月の淡い光)等に直観される「時空が断裂」した不可思議な風景である。
切り口は異なるが、坂口安吾(1906〜1955)の小説に「桜の森の満開の下」がある。その冒頭・・大昔は、人は桜の花の下を怖ろしいと感じ、その下を通る人間は気が変になって一目散に逃げていくのだと・・。(ひとひとりいない桜の森の満開の下には得たいの知れない夜叉が棲息しているのである・・。)
また逆に、旅に生きた孤高の歌人、西行は「願わくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月の頃(続古今和歌集)」と満開の桜の下で死を迎えたいと歌に詠んでいる。
春宵とは単なる花見酒に酔いしれるだけの空間ではけしてないようである・・・。
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