世相ここに至りて、「物で栄えて心で滅ぶ」という警句が、いよいよ現実味をおびてきた。
現代物質文明の豊饒がもたらした欲望の渦潮は、いとたやすく人をして絶望の淵に誘い、奈落の底に沈めようと暗黒の口をあけている。怖ろしきは欲望の横溢であり、際限のない欲望の追求は、人をして鬼畜に変えてしまう。
欲望にはもともと限りがない。いくら求めても満足することなく、しかして完結することもない。他方、人の命には限りがある。いくら求めても限りがくれば満たされようと満たされまいが完結してしまう。
結局。人生の成否は「限りなき欲望」と「限りある命」という「二律背反」をいかに調整するかにかかっている。かかる調整に現代人が失敗するとなれば、まさに「物で栄えて心で滅ぶ」ことになる。ゆめゆめ失敗は許されないのである。
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