小説「月山」で芥川賞を受賞した森敦(1912〜1989)は太宰治(1909〜1948)と同時代人であり、若かりし日には、ともに将来を嘱望された逸材であった。
しかし、その後の経過はまったく「対称的」である。
太宰が華やかに文壇にデビューしたのに対し、一方の森はプッツリと筆を断ち、人知れず野に伏し、日本各地を漂流する。
40数年の歳月を経て、太宰が生涯を通してあれほどに切望してもついには願いがかなわなかった「芥川賞」を、森はその人生の晩年に書いた、たった「一冊」の小説「月山」で受賞した。
森は「ひとつの創造」のために人生のすべてを賭け、太宰は「多くの創造」のために人生のすべてを消耗してしまった。
文学的才能は多分に太宰にあったのであろうが、人生の本質を見抜く慧眼は多分に森にあったということができる。
直木賞作家、井上ひさし(1934〜)に「遅れた者が勝ちになる」という著作があったが・・まさに「このこと」であろうか・・・。
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