かって知り合った精神科医から、「過去にこだわり執着する精神障害が鬱病」であり、「未来にこだわり執着する精神障害が分裂病」であるとの話を聞いた。
いずれも「物質である身体」と「意識である精神」が一体的な調整能力を喪失し制御不能に陥ってしまう精神病である。
この精神障害の構造を過去・現在・未来の「時空配列」から再考してみる。
物質世界である現在は人間意識が存在しなくとも存在するが、意識世界である過去・未来は人間意識が存在しなければ存在しない。
「しなくてもする存在」の方が、より根源的存在であること、従って、ことの本質の配列は物質世界があっての意識世界、つまり、現在があっての過去・未来であること、意識世界があっての物質世界、つまり、過去・未来があっての現在という逆配列はないことは前項で述べた。
以上の時空配列から考えると、鬱病や分裂病という精神障害(意識障害)は、物質世界と意識世界、つまり、過去・現在・未来の時空配列を逆配列にしてしまったことに原因がある。逆配列とは、意識世界があっての物質世界、つまり、過去・未来があっての現在という時空配列である。
人間の身体は物質であるから、当然にして現在という物質世界にしか存在することはできない、しかるに鬱病や分裂病に陥った精神障害者は、意識世界である過去・未来を現実世界(リアリティ)であると感じ、物質世界である現在を仮想世界(バーチャル)であると逆に感じてしまうのである。
人間の日常生活は物質世界である現在で営まれているのであるから、この身体と精神の「時空分裂状態」は日々の活動に重大な破綻を将来することは当然の成り行きである。
現代社会は意識を中核とする情報化社会であり、今後ますます意識世界は膨張し、高度化し、複雑化していくことであろう。
意識は過去・未来、あるいは幻想・夢想、いかなる世界へも跋扈跳梁(ばっこちょうりょう)でき、その「バーチャルとしての仮想世界」に存在することが可能である。だがどのように意識が進歩発展しようが、人間の身体が物質であることには変わりはなく、物質である以上、人間は「リアリティとしての現実世界」である現在にしか存在できないことは何人も覆すことはできない。
この根源的理を無視して、ことの本質の配列を逆転させるならば、たちまちのうちに「鬱病と呼ばれる過去世界の虜囚」、あるいは「分裂病と呼ばれる未来世界の虜囚」に落下してしまうのである。
情報化時代の中で人間意識はいかなる世界へ旅するのも自由である・・自由ではあるが、人間である以上「帰るべき故郷は現在にしかない」ことは永遠にして、決して忘れてはならないのである。
|