Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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精神の漂泊者
 現実世界に実在化した人間は、「精神の漂泊者」のようである。

 可能性の海である全体宇宙(暗在系)から、投影(実在化)された現実宇宙(明在系)は、時々刻々と万物事象を変化させて留まることがない「無常性の世界」である。
 この無常性の世界を、古人は「浮世」という軽妙な言葉を使って表現したが、まさにこの世は、暗在系である全体宇宙としての可能性の海に、泡沫のように浮いているような世界である。泡沫はかつ生まれ、かつ消え、その泡沫の中に顕れた人間もまた、一粒の泡のごとく、一瞬も留まることなく、その海に漂泊する。

 この世で確固たる存在と考える万物事象は、そのように確たるものとは言えず、人間意識の観測(意識化)よって、この世に、たまたま象出しているにすぎない。

 最先端物理学は、万物事象の根源を成す物質が、量子レベルでは、波動性と粒子性の狭間で、ゆらぎの状態にあることを説明する。

 かく述べる私もまた、時としてこの現実世界に、たまたま実在化した物質であり、その不確定性の世界に居住しているのである。

 このような「不確定性の世界」で言える、確かなこと。
 それは、身の周りに広がる宇宙に対して、「我、かく思う」という意識者(観測者)としての意識(観測)の実存性のみである。

 我々は可能性の海(全体宇宙)を旅する「精神の漂泊者」のようであり、浮世と呼ばれる、この現実世界に、浮き草のように、あてどなく漂っているだけの存在なのかもしれない。

2003.7.02

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