Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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意識の共有化
 21世紀は情報化時代と呼ばれ、今、世界中でIT革命が叫ばれている。

 これらの情況は、今後の現実社会に、重大な影響を及ぼすであろう。それは前述してきた波動方程式の波動関数の収縮(量子論的観測問題)に起因する。

 現実世界に顕れた万物事象の情況を「情報化」することとはまた、その万物事象を「観測化」することを意味する。
 換言すれば、その情報化(観測化)により、波動方程式の波動関数が収縮し、可能性の海である波動性としての全体宇宙(暗在系)から、あるひとつの確定された粒子性としての現実宇宙(明在系)が、この世に実在化することを意味する。

 全体宇宙から現実宇宙への収縮化(実在化)は、その情報の影響が及ぼす範囲で起こる。その情報の影響が及ばない範囲では、依然として波動関数は収縮せず、その情報化(観測化)に起因した、現実宇宙の実在化は発生しない。

 簡潔に言えば、「知らない宇宙は存在しない」ということである。

 情報化時代のIT革命が進展すると、この世の片隅で観測された情報は、衛星放送、携帯電話、インターネット・・等々で、たちどころにこの世の全体に伝達される。その伝達情報により、次々と各地で波動関数の収縮が引き起こされ、ともなった現実宇宙(現実世界)が、全体地域で実在化する。

 つまり、この世のたったひとりの観測者の観測結果による現実世界の実在化が、たちどころに、この世の全ての人々の現実世界に影響を及ぼす。

 情報化時代が発展し、IT革命が進行すればするほど、この波動関数の収縮する頻度は多くなり、その多くの頻度で、この世にともなった現実世界が実在化する。
 現実世界の実在化頻度とは、結局、我々が感じる「時間の経過速度」であり、実在化頻度が高いとは、時間の経過速度が速いことを意味し、その頻度が低いとは、経過速度が遅いことを意味する。

 簡潔に言えば、「原始時代における時間の経過速度よりも、情報化時代の現在の方が、その時間の経過速度を、より速く感じる」ということである。

 以上の構図を、意識の視点で考えれば、今まではひとりひとりの個別意識によって個別地域に実在化していた個別現実世界が、これからは全体意識によって全体地域に全体現実世界として実在化することになる、と記述される。

 つまり、「世界から地域が無くなる」と言う、情報化時代のキャッチフレーズの真相はここにある。

 全体意識による現実世界の実在化は、心理学者ユングが提唱した「集団的無意識」の概念に相似する。この世の生きとし生ける者の意識は、その深層部において、すべてが共有化されており、ユングは、その共有意識を、「集団的無意識」と呼んだのである。
 彼のこの説は、当時、衝撃をもって伝えられたが、形の無い「抽象概念」であったがゆえに、その真意を根本において理解した人は少なかったのである。

 だが、現代情報化時代の情報ネットワークの進展は、抽象概念であった彼の「集団的無意識」を具体的有形なものとして、我々の眼前に、構築しようとしているかに見える。

 であれば、情報化時代が目指すものとは、結局、「意識の共有化」に他ならず、その結果として、いかなる現実世界が、この世に投影されるかが、解明されるべき課題となる。

2003.6.23

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