Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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ピラミッド型システムの崩壊
 巷間の話題は「IT革命」である。

 ITとはインフォメーション・テクノロジー(情報技術)のことであり、IT革命とは「情報技術革命」のことである。

 ワットの蒸気機関の発明から始まった産業革命は、20世紀の機械文明社会を現出させ、21世紀を迎えた現在、コンピュータを基盤にした情報化技術の発展により、物体的機械文明とはまったく異なる、非物体的な情報文明社会に移行しようとしている。

 経営学者アルビントフラーは数年前「パワーシフト」という著作で、コンピュータを基盤にした情報化社会の未来構図を描いた。まさに彼が予測したように、現在、従来の社会システムは変貌し、その中で「権力の移行(パワーシフト)」が激しく進行中である。

 情報技術の発展は、企業の組織構造を大きく変化させ、社長ー部長ー課長ー係長の指揮系統で構成された従来型「ピラミッド組織」は崩壊しつつある。
 社長からの業務指示は部長、課長、係長という職階を飛び越え、直接に末端の担当者に伝達される。「情報のコントローラー」であった部長、課長、係長という職制の機能は喪失し、その職階そのものが風前の灯火である。
 組織効率、業績把握、人事評価・・等々はコンピュータが自律的に行い、社員は一ヶ所に集合して仕事をする必要がなくなり、インターネットにより、世界中に散在した社員が「ひとつの情報」を共有して仕事が展開される。
 今後は商取引も電子マネー決済が主流となり、取引銀行も地域的束縛から解放され、スイス銀行であれ、アメリカのシティバンクあれ、世界中の銀行が同一線上に位置する状況が出現するであろう。

 今や携帯電話を持っていない人をさがすほうが難しいが、各人が携帯電話を持つということは、24時間いかなる時も、その人に連絡可能であることを意味する。
 最近では、机上の有線電話を使うことをせずに、個人の携帯電話を使って話をしている人を目にする。この状況がいかなることかと考えれば、第一に交換台を通す手間が省けること、つまり「何部、何課の誰それさんをお願いします」という工程がいらないことである。その構図は、前述した部課長の職階を飛び越えて情報が伝達される「パワーシフトの構図」と同様である。第二に「ただ今外出中です」という伝達不能が発生せず、必ず繋がる効率性の高さである。
 これらの状況を考察すれば、やがては、交換台が消滅し、机上の有線電話もまた、姿を消す運命であることが予想される。

 以上、今後展開するであろう「IT革命」の様相を予測すると、そこには従来の常識では把握することができない、まったく異質な「新社会」の様相が、かいま見えてくる。

 但し、ここに大問題の解決が要求される。それは「従来型組織の崩壊と消滅」という課題である。

 だが、世界から地方、地域という従来社会における最大の拘束条件が消滅することは、すべてが中央であることを意味する。こうなると、俗に言う「マジョリティ」という概念は力を失い、それに代わってインフォーマルな「マイノリティ」という概念が力を持つ。つまり、「オンリーワン」を追求する個人事業主や、小さな町工場でも世界の檜舞台で活躍できる日が近づいているのである。換言すれば、限りなく公平で、平等な社会の出現可能性である。

 私には、弥生時代から始まった「ピラミッド型社会システム」は限界をむかえ、代わって個々の生活が重視され、物々交換経済が主流であった縄文時代の「フラット型社会システム」に回帰しようとしているかのように見える。

2003.5.30

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