物質文明機能社会をここまで牽引してきた最大の功労者は文字で構成された言葉であろう。
現代文明はこの「言葉の石垣」の上に築かれた堅固な城塞である。
だが近年に至り、この堅固な城塞が揺らいできている。原因はとりもなおさずその城塞の基礎をなす石垣のひとつひとつである「言葉の力」が失われてきたことに他ならない。力を失った石垣は瓦解するほかなく、その基礎の上に乗った城塞もまた早晩崩壊する運命にある。
言葉の力が失われたとは、言葉が軽く、薄っぺらになったということであり、それは繰り返される政治家の「国会答弁」しかり、巷間身の回りに飛び交う「虚言」や「戯言」を考えあわせれば了解されるであろう。
これはまた物質文明が成熟し、爛熟し、行き着いた必然的帰結でもある。「満ちれば欠ける」は世のならいである。
言葉には思いが込められなければならない。「思いが込められた言葉」こそが、崩れゆく城塞の基礎に再びの力を与え、その崩壊をくいとめる「漆喰(しっくい)」として機能するのである。
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