Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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形態共鳴仮説の応用
 形態共鳴仮説とはイギリスの天才科学者、シェルドレイクが提唱する説であり、過去の時空との共鳴を述べている。簡易に述べれば、過去の時空間に象出した現象等が未来の時空間において模倣踏襲されるという仮説である。

 この仮説は新雪が降り積もったスキー場のゲレンデにおいて、最初に滑り降りたスキーヤーによって描かれたシュプールを模倣踏襲して、その後のスキーヤーが滑り降りるという現象で説明される。
 早朝の新雪面には何らのシュプールもない純白の雪原である。だが誰か一人がその雪原を滑り降り、シュプールの痕跡を残せば、その後に続くスキーヤーの多くが、その残されたシュプールの痕跡をトレースするように滑り降りるのである。

 この仮説を商売に応用したものが、日本古来からの「さくら」という商い手法である。

 よく見られるのが、露天商がお客を装ったさくらを使って、自分の店の商品を買わせることで、その店の前に立つ他のお客の購買意欲を煽り、買わせてしまうという風景である。

 また新製品を市場投入するに際し、試供品をある特定数の顧客に無償で使用させることもこの手法の応用であろう。
 今まで誰も使っていない新商品の使用とは、純白のゲレンデにつけられた新たなシュプールであり、多くの購買者はそのシュプールに添って滑り降りるごとくに、その新商品を使うことに至る。

 この宇宙に存在しなかった新たな技術や製品の開発、新たな理論の発見、また新商品の市場普及・・等々の難しさは、この純白のゲレンデを前にして、最初に滑り降りる勇気と決断である。

 一番手と二番手の意味の違いは「天地の差」ほどもある。

 ニヒリズムを超克するPairpoleの狭間にある刹那空間に要求される志操とは、この勇気と決断である。

 茸(きのこ)を最初に食べた者の勇気と決断をこそ、褒め称えるべきであろう。

2002.11.14

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