Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知のワンダーランドをゆく〜知的冒険エッセイから
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対称性の崩れ
 宇宙における万物事象の変化は、宇宙の根本法則である「対称性」が、若干づつ崩れていく過程であると考えられている。宇宙は理路整然たる対称性の世界から、徐々に非対称な煩雑な世界へと変化して行くのである。
 その状況を熱力学的に表現したものが、「エントロピー増大の法則」である。万物事象は熱力学的な反応(変化)をするたびに、エントロピーは増大して行く。エントロピーとは別名、「曖昧量」と呼ばれる量であり、エントロピーが増大するとは、万物事象が変化するたびに、曖昧になって行くことを述べている。この過程を物理学では「対称性の崩れ」と表現する。
 宇宙の対称性は、しっかりした対称性から、幾分破れた対称性に、さらに大分破れた対称性にと、対称性が崩れて行く。人間誰しも、生きるにおいて、物事をしっかりとした決定論の下に置きたいのであろうが、宇宙はそれを許さない。
 対称性が崩れ、物事が不確定性に支配される宇宙に対応しようとする方法が、近年躍進めざましい「カオス理論」である。カオス理論とは、物事が混沌化し、曖昧になって行く、その「デタラメの態様」の中に、ある種の法則性を見つけようとする理論である。
 この理論が語るところは、「結果の描写」ではなく、その結果に至る「道筋の描写」であり、明快な結果を期待してはならない。よしんば、明快な結果を得たとしても、その結果は、すぐにまた、その対称性を破る「発端」となってしまうのである。
 我々は今まで、ニュートン力学的な決定論的思考を生活の基盤として来た。その決定論的思考の呪縛は強力であり、現在、地球上に存在するすべての人々の思考と行動を、強固に制約している。しかしながら、カオス理論が意味するところは、その決定論的な思考の拘束を解き放った、不確定な帰結であり、曖昧な思考対応である。
 カオス理論が明らかにするところは、アマゾン川の大洪水が、アメリカ大陸の片隅に棲息する、一匹の蝶の羽ばたきに起因するというものである。
 現在の世界経済は、エントロピーが増大し、対称性が大きく崩れ、混沌化した状態にある。カオス理論から考えれば、何が世界大恐慌を引き起こす原因となるかは誰も分らない。アマゾンの洪水のごとく、世界の片隅に存在する小さな会社の倒産が、その引き金になることも、じゅうぶんにあり得るのである。
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