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ビジョンウィンドウから眺める信濃の四季

窓の向こうに世界が見える〜信州つれづれ紀行から
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浅間山麓 鬼押し出し(1) / 群馬県吾妻郡嬬恋村
鬼の所業
 1783年8月5日(天明3年7月8日)におきた浅間山の大噴火。山腹を駆け下った大量の火砕流はここにあった鎌原村を一瞬のうちに飲み込んだ。死者477人、生存者は鎌原観音堂に逃げ延びた93人のみだったという。「鬼押し出し」とはその際に流れ出た溶岩が形成した岩野であるが、まさに「鬼の所業」をかいま見るような奇観を呈している。
 訪れたのは師走も近づいた晩秋の晴天であった。かって訪れたのは20年以上も前になろうか ・・ いたるところ多くの人で満ち、観光地としての明るさに輝いていた。季節の違いはあろうが、今見る岩野はどことなく静かで穏やかな風情を漂わせている。景観は変わらずとも、時間は確かに経過したようである。
 浅間山方向(西方)のカットは、逆光する太陽を手のひらで遮蔽するごとく、3台のカメラを屹立する岩頭で隠して撮ったものである。犠牲者の冥福を祈って昭和33年に建立された浅間山観音堂(東叡山寛永寺別院)の回廊から撮った山麓方向(東方)のカットには、斜光を浴びて横たわる北軽井沢の森々、その向こうには日光の男体山や、尾瀬の至仏山などがとらえられている。観音堂の鐘楼で突かれた鐘の音は、かかる澄み渡った広野の空を、低くして静かに伝わっていった。
文・撮影 / 柳沢 健
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