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未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事

信州つれづれ紀行 / 時空の旅
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四賀キャニオン / 長野県松本市会田
※)映像解説
 第1カットはキャニオンの東側からのカット、第2カットは逆の西側からのカット、第3カットはキャニオンの下部からのカット、第4カットは地層表面の拡大カットで波の化石と呼ばれるリップルマークや虫の巣穴の痕跡等が見られる。
フォッサマグナの点と線
 穴沢のクジラ化石をあとにした私は次なる目的地である四賀キャニオンと呼ばれる 「岩井堂の砂岩層」 の露頭に向かった。 露頭とは地層や岩石が露出している場所をいう。 四賀キャニオンもまた穴沢のクジラ化石と同様に行き着くには多くの労力を要した。 行きつ戻りつしたあげく、畑仕事をしていた好人物の村人に教えてもらってようやくたどり着いた頃には陽はすでに西に傾いていた。
 四賀キャニオンとはアメリカのグランドキャニオンをもじったものであろうが、規模は小さくても地殻の神秘を感じさせるに充分な奇観を呈していた。 地質年代はシガマッコウクジラやシガウスバハギが生きていた約1300万年前(別所層)よりも新しいものと言われている。 これもまた 「フォッサマグナ」 の形成を物語る痕跡である。
 かってこの奇観と似た景観に出会ったことがある。 それは長野県上田市富士山にある 「鴻の巣」 と呼ばれる砂岩層の奇観である。 (詳細は 第703回 「鴻の巣」 を参照)
 地質年代は2000万年前から500万年前の新生代第三紀中新世という時代というからほぼ同時代である。 「青木層」 と呼ばれる地層の一部分であるとされるが青木と別所は隣接地であって同じ地層であるといっても間違いではあるまい。 しかして、鴻の巣と四賀キャニオンは直線距離にしておおよそ25kmほどである。 同じフォッサマグナの海域にあったといっていい。 鴻の巣の砂岩層には木の葉の化石が見られるというが、四賀キャニオンの砂岩層にも同様に波の化石と呼ばれるリップルマークや虫の巣穴の痕跡等が見られる。 あるいは穴沢のクジラ化石の彼もまた鴻の巣の海底を泳ぎ回っていたのかもしれない。 長年探し求めていた鴻の巣と四賀キャニオンに架け渡された 「フォッサマグナの点と線」 の謎がようやくにして氷解していくようであった。
 喧噪の現代社会に生きていると1000万年を超えるほどの時間経過を肌身に実感する体験などに出会うことは希なることであろう。 だが変哲なき荒野を彷徨するうちには刻として今日のようにその天恵にめぐり逢うこともあるということであろう。

2022.04


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