信州で花桃の里と言えば上田市の「余里の花桃」が知られていて幾度か訪れている。 だが南信州の南アルプス山麓の山間に位置するこの地の花桃を目にするのは初めてであった。 駒ヶ根市中沢の地を車載ナビに入力して向かうが新たに開通した道路は検索されず途中しばしの行きつ戻りつはあったがどうにかたどり着くことができた。 中沢の地に入ると村のいたるところに花桃の花が咲いている。 自然に生えたものかそれとも村人が里を美しく飾るためにこぞって植えたものかはわからないが暖春の陽光をうけて華やかに映えている。 村人の思いは充分に達成されている。

　谷川の流れを遡った奥山にその桃源郷はひかえていた。 絶好の日和と満開が相まって近隣にとどまらず遠方からの花見客で郷は1年1度の宴を謳歌しているかのようである。 東に南アルプス、西に中央アルプスの連山を仰ぎ見る伊那谷。 その春はいまだ鄙の息吹を忘れずに世の片隅に横たわっている。 その風情はまさに 「桃源郷の春」 というにふさわしい。