Linear ベストエッセイセレクション
囲い込み理論
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資本主義の終焉
 社会主義がたどったように資本主義もまた終焉を迎えようとしている。 富がごく少数の人間に集中してしまったことによる経済の機能不全がその原因である。
 しかしてその原因の本質は 「囲い込み」 である。 いきなりの囲い込みでは唐突の観はいなめないが、話をとある 「〇〇温泉の衰退」 を例に採って進めると以下のようである。
 かってこの〇〇温泉には日本各地から観光客が大挙して押しよせ、週末ともなれば広い駐車場には様々な観光バスが隙間なく列をなしていた。 夜ともなれば温泉街には浴衣に下駄の宿泊客がそこかしこにたむろし通りは肩もふれあうほどの賑わいであった。 それがいつしか潮が引くように消えていってしまったのである。 さまざまな原因が考えられようが、私は冒頭で掲げた 「囲い込み」 が最大の理由であったと考えている。
 その囲い込みとは 「お客の囲い込み」 のことである。
 かくなる囲い込みは、その温泉街にある旅館やホテルが 「フロント」 や 「ロビー」 に土産物の販売コーナを設けるところから始まる。 やがて、それにカラオケボックスが加わり、さらには寿司やラーメンの屋台が加わる。 「私どもの旅館で、私どものホテルで、すべては用意されています、外へ出て行く必要はありません」 という手法である。 そうなれば賑わっていた温泉街から宿泊客の姿が消えるのにそう時は要しない。 宿泊客の姿が消えれば、温泉街にあった土産物店、風俗店、射的屋、寿司屋、ラーメン屋 ・・ 等々が消えていくのもまた必然の帰結である。 山中の一軒旅館や一軒ホテルであればまだしも、〇〇温泉に来る観光客はその〇〇温泉がもつ固有の風情(その多くは温泉街の風情であるが)を求めてやってくるのであって、旅館やホテルを求めてやってくるわけではない。 温泉街から風情が消えた〇〇温泉に客足が遠のくのは無理からぬことである。 結局、宿泊施設としての旅館やホテルが 「自らの利益最大化」 を求めたがゆえに、〇〇温泉全体が衰退してしまったのである。
 このような囲い込みは〇〇温泉の例にとどまらず、資本主義経済全般に渡る衰退の本質である。 世界の富の90%近くを数%の人間が所有する 「富の囲い込み」 をもってして、はたして世界経済の繁栄など実現可能なのであろうか? 人影途絶えた温泉街の風景がそのことを語っている。
※)囲い込みとは
 「囲い込み」 とは宇宙の自然法則に則っていることをもって 「囲い込み理論」 と呼べるようなものであり、運動をともなうことをもって 「囲い込みメカニズム」 と呼べるようなものである。 蛇足ながら付け加えると 「一将功成りて万骨枯る」 とは 「名誉の囲い込み」 を意味している諺であろう。

2016.10.19


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