Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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変化考(2)〜変化してはならない
 「変化考(1)」では世界は「変化しなければならない」、ものごとの完成には「時間をかけてはならない」という現代人のライフスタイルが行き着く先を予想した。
 このライフスタイルが依って立つ論理基盤をひとことで言えば「過去の否定」である。その「過去の否定」の深層をさぐれば、ものごとが原因と結果で構成されるとする「因果律」に想到し、さらにその「因果律」の深層をさぐれば、その因果律のもとになっている時間は過去へは流れないとする「時間の非可逆性」に帰着する。「覆水盆にもどらず」というときの非可逆性であり、「後の後悔先に立たず」というときの非可逆性である。それらの論理構成が成立すると考えるがゆえに、現代人は過去を否定し変化を求めるのである。
 私はかって「逆因果律」という論理構成の可能性について思考した。逆因果律とは以下のような論理である。
 逆因果律とは未来が原因で過去が結果という時間を逆にした因果律である。未来に成した結果によって、過去に成した原因の意味が変更され得るとすれば、未来を原因と考え、過去を結果とすることが可能となる。人はその人生観において過去は絶対的に変更不能ということを信じて疑わない。ゆえに過去の失敗は取り返しがつかない。だが「人間万事塞翁が馬」という諺のごとく、その失敗があったがゆえに未来において何事か成功したとき、過去の失敗は取り返しがつかないどころか必要不可欠な失敗となる。 つまり、未来に成す何事かに依って、過去に成した何事かを変更しうる。過去が未来において変更可能であるとすれば、未来の意味は大分変わってくる。可能性に賭ける人生とは、過去を否定するのではなく是として肯定し、未来を原因化する人生である。
 9回裏2アウト満塁3点差、ここでホームランを打てば過去の失敗は成功に転化する。この一発逆転を目指してヒーローはバッターボックスに入るのであって、勝負は下駄を履くまでわからないのである。
 逆因果律が成立するとすれば現代人が推奨するインスタントなライフスタイルも大分変わってくる。かって団塊の世代が教訓とした「転がる石は苔を付けない "A rolling stone gathers no moss" という箴言」の有効性が再び甦ってくるのである。
 根のない樹が立っていられないように人間もまた過去という根がなければ生きていけないのである。苔とはその誇りなのである。

2017.09.30


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