Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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策は前進よりも後退にあり
 前進と後退。 いずれが難しいか? さまざまな得失を検討すれば50対50ということになろうが、後退の難しさを知る人はそう多くはない。
 事を戦の進退で考えれば、軍を進めることは誰にでもできるが、退却させることはよほどの強者でなければできない。まして本軍を無事に退却させる任務を負った「殿(しんがり)軍」ともなれば、その窮状は筆舌に尽くしがたく死を覚悟しなければならない。
 事を事業の進退で考えれば、事業を進めることは誰にでもできるが、撤退することはよほどの智者でなければできない。その困難さは「シャープ」や「東芝」の窮状を鑑みれば明らかであろう。
 それは国家運営の進退においても変わることはない。「成長!成長!進め!進め!」と旗を振ることはいかなる指導者にでもできるが、「縮小!縮小!後退!後退!」と撤収を喚起できる指導者ともなればよほどの胆力を備えた者でなければできない。 しかしてその数は希少である。
 この先どこかで、世界が前進から後退に転じたとき、最も必要とされる人材とは、あるいは、難なく手じまいできるような撤退能力に優れた者なのかもしれない。 だがその過酷さは戦国の世の「殿軍」のごとき惨状を覚悟しなければならない。

2017.06.21


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