Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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戦争の記憶〜西部戦線異状なし
 世相は先の第1次(1914年〜1918年)、第2次(1939年〜1945年)世界大戦前夜のような様相をみせている。第1次大戦から数えて100年以上の年月を経た現在、当時の状況を肌身をもって経験した人は、おそらくその大半がこの世を去ってしまっているであろう。いま地球上で生きている人のほとんどは、その大戦を「記憶のうえでの存在」として感じているに過ぎない。
 レマルクの「西部戦線異状なし」、ヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」などの小説は個としての人間と集団としての戦争との狭間で苦悩し葛藤した人間の姿を描いた不朽の名作である。それが書かれたのは戦後まもない頃のことであったから人々は実体験として描かれた戦争を肌身をもって感じたであろう。戦争の悲惨さ、愚かしさ、をいやというほどに思い知らされたであろうし、また心底から悔恨したであろう。それらの思いは、大きな犠牲をはらった人類が後の世に遺した遺産、言うなれば「戦争遺産」である。
 だが貴重なその戦争遺産が消えつつある現在の状況は、同じ人類をして「いつかきた道」へと誘惑する。 そして「いつの日か」識者は言うであろう「がゆえに戦争は再び起きるのだ」と。
※)西部戦線異状なし
 ドイツ軍志願兵の主人公パウルが第1次世界大戦下の西部戦線に赴き、やがて戦死するまでを描いた物語である。題名「西部戦線異状なし」はパウルが戦死した日の司令部への報告書に記載された「西部戦線異状なし 報告すべき件なし」のラストカットに由来している。戦時下では人間性の狭間で苦悩し葛藤した1人の兵卒の死などは大した問題ではなく記録にさえ残らないということである。

2017.04.12


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