Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
Turn

カルテット〜言葉は音符のごとく
 「カルテット」というテレビドラマが注目を集めている。カルテット(弦楽四重奏)という題名どおり4名の男女が織りなす「ラブ」と「サスペンス」を渾然一体化させた「ラブサスペンス」がうたいもんくのドラマである。配役は、松たか子(第1ヴァイオリン)、満島ひかり(チェロ)、高橋一生(ヴィオラ)、松田龍平(第2ヴァイオリン)の4名で、いずれ劣らぬ個性派俳優である。脚本は「東京ラブストーリー」や「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」を手がけた坂元裕二が務める。
 ドラマの内容は観てもらうとして本題はそのドラマの中に流れている特異な時間と空間についてである。ドラマの大半は静止カットの中で延々と連続する4人の会話で占められる。それはあたかも言葉のバトルロイヤルのようであり、陽気の饒舌と陰気の沈黙が交互に繰り返す。それはまるで弦楽四重奏(カルテット)が奏でる音楽のようである。
 乏しい音楽知識の中でこの状況を描けば以下のようなものである。
 ピアニシモ(ごく弱く)から始まった旋律はクレッシェンド(次第に強く)とともにフォルテシモ(ごく強く)に変化、モデラート(中位の速度で)のテンポはスタッカート(音を切って)とレガート(音の切れ目を感じさせないように)を繰り返してドルチェ(甘くやわらかに)に至るが、突如として現れたダ・カーポ(先頭に戻る)でアレグロ(快速に)が戻ってくるも、やがてエンディングに向けたラルゴ(重々しくゆっくりと)へと移行、アダージオ(落ち着いてゆっくり)の中でカンタービレ(歌うように)で終幕する。
 視聴率はそれほどに高くないのに注目度が高い理由はこのあたりに理由があるのであろう。視聴者の中には会話の意味を理解するためにビデオ録画して観る人も多いという。これらの視聴方法を考慮して算出した視聴率はかなり高いとの見方をする評者もいる。
 映像を主体にしたテレビドラマでは通常はアクションが重視されるものであるが、会話が重視される点こそが本作の特異性の本質なのであろう。
 言葉をカットして身振りだけで行う「無言劇」という手法は従来から上演されてきた。だが身振り(行動)をカットして言葉だけで上演される「無行劇(仮称)」のようなものがあったのかどうかは筆者の知るところではないが、言葉を音符のように使い人間の意識の流れを奏でる手法は斬新である。このような手法は「物質を主体」とした工業化社会から「意識を主体」とする情報化社会へのシフトによってのみ可能になったものかもしれない。 今後の推移を注視していきたい。

2017.03.10


copyright © Squarenet