Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
Turn

確信の終焉〜混沌からの秩序
 化学者、イリヤ・プリゴジンは、非平衡熱力学における「散逸系の研究」でノーベル賞を受賞した。散逸系とは、決して均衡状態にはならず、さまざまな状態の間をいったりきたりする化学物質の異常な混合状態のことである。プリゴジンの研究とは、言うなれば秩序と無秩序の狭間におけるカオスと複雑系の胎動を解明しようとしたものである。
 熱力学の第2法則「エントロピーの増大」は、物理学の「エネルギ保存則」とならぶ科学の基本法則である。エントロピーの増大とは、時間の矢にそって事態が秩序から無秩序へと移行していくことを示している。それはまた時間が逆行しないと考える根拠ともなっている。
 だがプリゴジンは、エントロピーの増大が必ずしも無秩序状態をつくりだすとは限らないことを明らかにした。 「混沌からの秩序〜自己組織化」という現象である。
 未来学者のアルビン・トフラーは、1984年に出版されたプリゴジンの著書「混沌からの秩序」の前書きで、プリゴジンをニュートンになぞらえ、科学の未来を拓く「第三の波」はこれらの研究によってもたらされるであろうと予言している。
 プリゴジンはカオスや複雑系の概念について以下のように述べている。
 これらの概念は 今後は科学者だけでなく 社会一般に広く受け入れられていくであろう 素晴らしい統一理論が存在するとする社会的通念は 宗教上も政治上も芸術上も そして科学上も 希薄になりつつある たとえば信心深いカトリック教徒も その親や祖父母たちに比べれば たぶんそれほど深くは信じていないだろう 私たちはもう前のように マルキシズムや 自由主義にこだわってはいない 私たちはもう古典的な科学を信じてはいない 同じことが芸術、音楽、文学についても言える 社会は多様化した人生観や世界観を受け入れることを学んだのだ 人類は「確信の終焉」を迎えたのだ
 「確信の終焉」とは言い得て妙である。今まさに世界中の人々が遭遇している状況の核心こそがかかる「確信の終焉」である。世界は今、絶対的価値観から相対的価値観への移行を試みている。ミレニアム(千年紀)同様に、我々は今、大きな「思考の分岐点」に立っているのである。

2017.02.15


copyright © Squarenet