Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
信州つれづれ紀行 / 時空の旅
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ともしび博物館 / 長野県上田市武石
灯り
 この博物館を再訪した理由は2つある。ひとつは昨年3月に訪れたときには冬季休館中で館内を見ることができなかったこと、他のひとつは武石村の人々が「世界中でいちばんきれいな2週間」と自負する余里の「一里花桃」の場所を教えてもらうことである。
 5月連休中ではあったが、館内はひっそりとしていた。館は灯りを作りだす「体験館」、映像を通して灯りを知る「伝承館」、灯火器を展示する「展示館」から成っている。館の職員は1人しかいないようで、その女性職員が孤軍奮闘、受付から、さらには体験館で、木の棒を回転させての発火法、火打石を使っての発火法を実演してくれた。生で見るのは初めてのことであり、いにしえの文明をかいま見た気がした。
 北信濃に位置する小布施町には「あかり博物館」という博物館があるというが、いまだ訪れたことはない。「ともしび」と「あかり」では少し意味が異なるのかもしれない。日本で「電灯」が普及したのは明治維新以降のことであって、それは縄文の世から営々と続いてきた数千年の「灯火」の歴史からみれば「つい最近」のことである。その短時間の中で、世は原子力発電まで行き着き、ついには、3.11震災で「世界中でいちばんきれいな自然」を、かくこのように放射能で汚してしまったことは、ほんとうに残念で、縄文人には申し訳がたたない。
 そんなことども考えながら館を出ると、そこには静寂に包まれた日本庭園が、昼下がりの陽射しを浴びてよこたわっていた。それはまさに「刻がとまったごとく」にも、あるいはまた「刻が永遠に続いているよう」にも感じられる光景であった。
2011.5

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