Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
信州つれづれ紀行 / 時空の旅
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大町市立図書館界隈 / 長野県大町市
その刻のように
 黄昏どきの広場で催された野外コンサートに集まる市民のことを取りあげたニュース映像を見て一度は訪ねたいと思っていた大町市立図書館界隈を訪れた。そのわけとは、ニュース映像からは、ささやかではあっても、地方都市がもつ「豊かな暮らしぶり」がかいま見えたからに他ならない。北アルプス後立山連峰を間近に仰ぎ見る大町市は、かってこの後立山連峰と立山連峰の間に横たわる黒部峡谷に架けられた黒部ダムの建設にあたって、未曾有の殷賑を極めた。その間のくだりは映画「黒部の太陽」に詳しい。ダム完成後も、繁栄はその観光地として引き継がれたが、時代の波はいつしか、この山麓から去っていってしまった。行き交う人々であふれた駅前通りも、今ではシャッター街と化し、昔日の面影はどこにも見あたらない。「時代の流れ」といってしまえばそれまでであるが、その浮沈をまのあたりにした市民にとっては、悲嘆あたわざるものがあったのではなかろうか・・・。
 カットは図書館前の運動場にカメラをセットして撮影したものである。右奥にある遊園地には赤ん坊を抱いた「若い母親たち」の姿が、運動場にはボールを追う「小さな子供たち」の元気な声が、図書館前の広場ではスケートボードをする「少しうえの子供たち」の歓声が、左奥の体育館の内ではサークル活動に熱中する「大人たち」の姿があった。暮れなずむ広場に流れるクラシックコンサートに聴きいる市民の姿を思い描いていた私としては少々拍子抜けの感があったが、眺めているうちに、これこそが地方都市としての「豊かな営み」であると納得した。冠雪を頂いた初冬の爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、五竜岳等々の山々は穏やかな陽ざしを背に受けて、そんな市民のことどもを優しいまなざしで見守っているように、私には思えた。この町には、やがて・・・きっと、かってあったであろう「その刻のように」、新たな時代の波が打ち寄せてくるにちがいないのである。
2010.11

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