Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
信州つれづれ紀行 / 時空の旅
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富士見高原 創造の森 望郷の丘 / 長野県富士見町
あの丘を越えて
 (「彫刻公園」から続く)
 「彫刻公園」展望台での撮影をおえたあと、同じ散策路をくだるのは芸がないと、迂回路を選び、少々気落ちした気分で歩いていた私の視界は突如として開かれ、眼下に富士見高原の全域が広がった。それどころか、北方遠くに「中央アルプス」の山並が、正面に甲斐駒岳を前面にした「南アルプス」が、遮るものもなく天空に聳えている。さらには南方遠くに「富士山」さえ雲上に顔を出していた。そして今まさに、晩秋の八ヶ岳高原の空を渡ってきた日輪が、今日の仕事をおえ、西方に没しようとしている。
 絶景を前に呆然と立ちつくしていた私が、我に返って、その瞬間の定着を試みようとカメラをセットするまでには、しばし時の経過を要した。撮影をおえてから、ようようあたりを見回し、立て標識を読むと「望郷の丘」とあった。誰がつけたか、現代では死語のように古めかしくも、また懐かしい命名である。シベリアに抑留された日本兵が、遠く祖国日本を思って涙した時代が甦ってくるようである。名優、鶴田浩二が歌った「異国の丘」が彷彿として思い浮かんだ。戦後、日本は「あの丘を越えて」歩んで来たのである。かくみれば「望郷の丘」からの眺めは、久しぶりに出逢った「故国の風景」でもあった。
2010.11

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