Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
信州つれづれ紀行 / 時空の旅
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小渋ダム / 長野県下伊那郡松川町
優美なフォルム
 いつか行こうと思っていた小渋ダムを訪れた。訪れた日は今年の猛暑もどうやら通り過ぎたと思ったとたん再来した夏のような暑い日であった。中央自動車道松川インターを降り、天竜川の東山麓を小渋川に沿って、渓谷の斜面につけられた狭い道路を、落石を気にしながら5kmほど遡ると、優美なアーチ式コンクリートダムが峡谷の静けさの中に佇んでいた。
 着工/昭和38年4月、竣工/昭和44年5月。6年の歳月を費やして完成した多目的ダムである。通常は1軸で構成されるアーチ構造が、このダムでは3軸で構成されているという。堤体の厚みが、他のアーチ式コンクリートダムより薄い事が特徴であり、その薄さにもかかわらず漏水量が非常に少ないとの事である。当時の土木技術水準の高さとその技術を支えた土木技術者の腕前には「ただ感嘆」するしかない。昭和38年といえば私が中学生の頃である。谷の両側の岩盤にアーチの両端がしっかりと食い込み、エメラルドグリーンに染まったダム湖の満々たる水量を軽々と支えて微動だにしない「優美なフォルム」は一級の芸術品である。はたして現代の土木技術者はこの作品以上のものを後世にのこせるのであろうか・・・ダム天端の堤頂でワカサギを釣るふたりずれ以外に人影はなく、あたりは日盛りの陽を浴びてシンとしている。
2010.10

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