Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
信州つれづれ紀行 / 時空の旅
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黒姫童話館 / 長野県上水内郡信濃町黒姫高原
永遠の刻の流れの中で
 その童話館は黒姫山と妙高山の山懐に囲まれ雄大に広がる黒姫高原の小高い丘の上に立っていた。建物はまさに童話風であり日本を意識しなければ北欧の片田舎にいるような気にさせられる。童話館の南側には、この黒姫高原をこよなく愛した絵本画家「いわさきちひろ」が建てたアトリエ(黒姫山荘)が移築されている。ちひろは生前、このアトリエで絵本の制作をおこない、宮沢賢治の花や草木にまつわる童話を集めた「花の童話集」や万葉集の秀歌150首を紹介した「万葉のうた」は、この黒姫で描かれ、「わらびを持つ少女」や「わらびと山つつじ」、「山里のスミレ」などの作品には、黒姫の自然が息づいているとのことである。また未完となった遺作「赤い蝋燭と人魚」もこの山荘で描いたとのことである。
 ちひろがこの高原に到来し山荘を建てたのは1966年のことであり、さかのぼる43年前である。当時の社会状況と現在とでは隔世の異なりがあったとしても、今まさに眼前にするこの黒姫高原の眺めは、おそらくは寸部も異なっていないであろう・・・ちひろが思い描いた童話の世界は色あせることなく永遠の刻の流れの中で、この地に今も生き続けているのである。
2009.6

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