Linear
未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事

知的冒険エッセイ / 時空の旅
Turn

山中の賊と心中の賊
 現代社会が発現するさまざまな問題をつぶさに眺めれば、そのどれもが内なる心的世界に関係していることが見えてくる。さらに考えれば、その原因が外なる物的世界の急速な進歩に、内なる心的世界が追いつかないことにあることが分かってくる。
 外なる物的世界は「押しボタン」ひとつでいかようにもなる「ハイテク世界」であるが、内なる心的世界は旧態依然たる「ローテク世界」である。心的世界を外部から都合良くコントロールできるような押しボタンなどはいまだ開発されていない。しいて言えば麻薬や覚醒剤などがあげられようが、それを押しボタンとするには、あまりに品質粗雑で危険極まりない。そもそもそれは違法である。
 物的世界をコントロールする押しボタンの開発は進歩した科学的ロジックを駆使すればそう難しいことではないが、心的世界をコントロールする押しボタンの開発はその開発手段が確立されていないだけにそう簡単ではない。
以下の言葉は「心即理(第935回)」を掲げた陽明学の祖である王陽明のものである。
山中の賊を破るは易く 心中の賊を破るは難し
 山中に立てこもっている敵を平らげるのはやさしいが、心の中の邪念に打ち勝つのはむずかしいという意味である。心中の賊をきれいさっぱり片づけることができれば、これこそが人に誇れる偉大な功績だとしたのである。
 心的世界の様相を描いたものに「もっと思いを(第236回)」、「心の旅(第534回)」、「物で栄えて心で滅ぶ(第544回)」、「心凍らせて(第746回)」、「心ボロボロ(第792回)」等々がある。併せてお読み頂ければ幸いである。

2016.06.08


copyright © Squarenet