Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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生まれいずる混沌
 この宇宙が複雑で曖昧で混沌としたカオス状態であることは「エントロピーの増大」に帰因する。エントロピーの増大とは熱力学の基本法則であり、時間と同様に非可逆性をもち、時間が過去に進まないように、エントロピーもまた減少には進まない。つまり、時間が進行すれば、ともなってエントロピーもまた増大する。
 エントロピーは別名「曖昧量」とも呼ばれる。エントロピーが増大することは、この曖昧量が増加することであり、この世の万物事象は時間経過とともにカオス化(混沌化)し、ますます曖昧に、複雑に、でたらめになっていくことを示している。例えて言えば、蟻が詰まった缶の蓋を開けて蟻を外に出すと、その蟻を収容するためにはさらなる大きな缶を必要とするような構図であり、東西冷戦で地球上が混乱していた時代、冷戦が終われば混乱が収束するだろうと誰しも思っていたが、冷戦が終結してみれば、混乱が収束するどころか問題はさらに複雑化して混乱が拡大していくような構図である。つまり、熱的反応が進行するごとにエントロピーは増大していく。簡潔に表現すれば、「問題の解決は新たな混乱の始まり」ということである。
 エントロピー増大を抑制するためには「缶の蓋を開けなければいい」のであるが、原始時代であればともかく現代は情報化時代の只中である。いくら止めてみても、缶の蓋を開けてしまう人にはことかかない。
 かくしてこの世はますます複雑に曖昧にでたらめにカオス化していくことになる。その速度はコンピュータの出現で急速に上昇した。カオス宇宙にコンピュータが挑んでいる姿はどこか「滑稽(こっけい)」でもある。自らが増大させたカオス世界を解明するためにコンピュータは自らの能力を応分に増強して挑む・・だがその増強されたコンピュータの能力がさらにカオス世界を増大させ複雑化させてしまうのである。自己矛盾であっていくらやってもきりがない。様相は将棋の「千日手」のようにエンドレスである。

2015.03.17


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