Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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ものぐさ太郎
 IT技術の発展で膨大な伝達情報による知識量が爆発的に膨張している中、人間の身体的活動が縮小していく社会は何をもたらすのであろうか。ふと古くより信州に伝えられてきた「ものぐさ太郎」という昔話が想起された。翻って眺めれば、世はまさに「ものぐさ太郎的・生き方」を推奨しているかにみえる。かっての「ものぐさ太郎」は怠惰の象徴として語られていたのであるが、時代が変われば予想だにしない状況が将来される。
※)ものぐさ太郎伝説
 信濃国筑摩郡あたらしの郷に働かず寝てばかりの男がいた。村人からは「ものぐさ太郎」と呼ばれ、現地の地頭も呆れるほどの怠けぶりであった。あるとき都から夫役のお召しがあり、村人たちは皆嫌がって「ものぐさ太郎」をおだて上げて夫役に行かせることに成功した。上京した太郎はまるで人が変わったように働き者になったが、なかなか嫁が見つからない。そこで、人の勧めで清水寺の門前にて「辻取」(路上で女を連れ去って妻妾とすること)を行う。たまたま通りかかった貴族の女房(女官のこと)を見初め、妻に取ろうとするが女房は嫌がり太郎に謎かけをして逃げ去ってしまう。ところが太郎は謎かけを簡単に解いて、女房の奉公先である豊前守の邸へ押しかける。そこでは女房と恋歌の掛け合いをするが機知に富んだ太郎が女房を破り、ついに二人は結婚する。垢にまみれた「ものぐさ太郎」を風呂に入れてやると見まごうばかりの美丈夫に変貌する。噂を聞きつけた帝と面会すると太郎が深草帝の後裔であることが明らかになり、甲斐・信濃の中将に任ぜられた太郎は子孫繁栄し、120歳の長寿を全うした。死してのち、太郎は「おたがの大明神」(穂高明神あるいは松本の多賀明神と思われる)、女房は「あさいの権現」として祭られ人々に篤く崇敬された。

2015.02.03


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