Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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負けざる者たち
 情報化社会で生きるときに気をつけなければならないこと。それは自己の主体性を見失ってしまうことである。確かに他者の生活や生活環境を知ることは必要ではあるが、行き過ぎると自らの生活と生活環境を見失ってしまう。世界の中心は自らのいる「ここ」にあるのであって、そこ以外の「どこ」にもない。寺田寅彦は「懐手して宇宙見物」と言ったが、寺田の心境もまた宇宙の中心は「ここ」と考えていたに違いない。また「天上天下唯我独尊」と言った釈迦にしてもそれは同じであったに違いない。
 「ここ」は人間にとっての絶対的基準点であって、換言すれば「原点」である。船乗りが「羅針盤」なしに航海ができないように、人生にとってもこの「原点」なしには荒波をくぐり抜けることはできない。

 付随して生きることの意味や、充実感などは自らが創りあげるものであって、与えられるものではない。往々にして情報化社会では、映画やテレビで眺める世界が生きることの意味や充実感を指し示しているように感じてしまい、「そうでない生き方」は間違いのように錯覚してしまう。生きる意味や充実感などは、好みのアイフォーン携帯を買うように安直に手に入るものなのではなく、自らが悪戦苦闘して創りあげるものである。日々の営みはその唯一無二の創造(独創)へ向かっての果てしない冒険の旅なのである。人生においてどうしても創りあげなければならないものがあるとするならば、それは自らの手作りになるこの「独創的世界」ということになろう。以下はその独創的世界に挑んだ不撓不屈の超人の話である。

※インビクタス −負けざる者たち−
 1990年、27年にわたる投獄(国家反逆罪で終身刑)から釈放。1993年、デクラークと共にノーベル平和賞受賞。1994年、南アフリカ初の全人種参加選挙により、南アフリカ初の黒人大統領に選出された愛と寛容の指導者、ネルソン・マンデラ。そのネルソン・マンデラ大統領が起こす奇跡の実話を描いた映画「インビクタス‐負けざる者たち‐」(出演 / モーガン・フリーマン、マット・ディモン 監督 / クリント・イーストウッド 公開 / 2010年2月5日)。その中でモーガン・フリーマン演じるネルソン・マンデラ大統領が紹介するウィリアム・アーネスト・ヘンリーの同名(インビクタス)の詩。

  インビクタス −負けざる者たち−

 私を覆う漆黒の夜
 鉄格子にひそむ奈落の闇
 私はあらゆる神に感謝する
 我が魂が征服されぬことを

 無惨な状況においてさえ
 私はひるみも叫びもしなかった
 運命に打ちのめされ
 血を流しても
 決して屈服はしない

 激しい怒りと涙の彼方に
 恐ろしい死が浮かび上がる
 だが、長きにわたる脅しを受けてなお
 私は何ひとつ恐れはしない

 門がいかに狭かろうと
 いかなる罰に苦しめられようと
 私が我が運命の支配者
 私が我が魂の指揮官なのだ
2012.6.22

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