Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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家政婦のミタ
 「正しい倒産のしかた」。もう10年以上も前になろうか、中小企業の社長が集った宴会でこの標語が話題となった。おそらくこの標語がもつドライ感や斬新な視点が当時の経営環境の中でうけたのであろう。

 先日、新聞の経済雑誌の広告欄に「正しい廃業のススメ」というコピーがあった。10年もたつと「正しい倒産」が「正しい廃業」になるのかと思いながら目を転じると、その横に小さな文字で「上手な倒産 完全マニュアル」というコピーがあった。これらの標語の変遷は、かくあった10年間の中小零細企業の経営環境の変遷と経営倫理の変質を如実に物語っている。

 また昨今の人気ドラマは松嶋菜々子が演じる「家政婦のミタ」であるという。そしてかっての人気ドラマは市原悦子が演じた「家政婦は見た」であった。“家政婦のミタ” は無機質の感情をもった家政婦が現代の砂漠化した都市社会の中で幽霊のように活動する物語であり、“家政婦は見た” は活動力に勝る家政婦が展開する上流家庭の覗き趣味的な物語であった。この “家政婦は見た” から “家政婦のミタ” への変遷もまた日本社会の倫理観の変遷と変質を如実に物語っている。

 以上のことを、かって「正しい倒産のしかた」を話題にした社長に話をすると、その社長が寂しそうに、ふとつぶやいた「水戸黄門も終わってしまうしな・・」と。そのとき私は、国民的人気に支えられてきた長寿番組「水戸黄門」が終わってしまうことにこそ、日本人の倫理観の変遷と変質の核心が紛うことなく表象していることを思い知らされたのである。
2011.12.14

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