Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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明鏡止水

 物質世界は一瞬もとどまらず「生々流転」する。

 もし意識世界を、この生々流転する物質世界に従わせるならば、その変化に同調させ、自身の意識世界も変化させざるを得ない。

 だがそうすると、彼の人生は世で俗に言う「物事に一喜一憂する」ことになる。

 貧すれば明日の生活の維持に一喜一憂し、富めばその富の喪失に一喜一憂する。
 世が乱れれば自己の存続に一喜一憂し、世が泰平であれば自己の実現に一喜一憂する。

 これらの一喜一憂に際限はなく、尽きることがない。彼の一生は、あたかも「一喜一憂の波」に弄ばれる木の葉舟のようである。

 陽明学を創始した王陽明は「心即理」を唱えた。意識世界を生々流転する物質世界に従わせるのではなく、意識世界である心そのものを「主体」として、物質世界に対したのである。

 主体とする心の持ちようで、物質世界は、美しくも、醜くもなる。

 明鏡止水とは・・物事に一喜一憂することなく、心を曇りのない鏡のごとく、また静止した水のごとくに保って、生々流転する物質世界に対応する様である。

 この世は、「物質世界」と「意識世界」のPairpoleである。現代物質世界の混乱と喧噪は目を覆うばかりであり、明鏡止水とまでいかずとも、少しは心を静かにして、世の生々流転に対応したいと思うのであるが・・・。

2004.4.22

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