Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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万物事象の所有権
 宇宙全体である可能性の海としての暗在系から、この世に実在化した明在系である現実世界に存在する「万物事象」は、言うなれば我々の意識という「投影機」で投影された、投影像のような存在である。
 我々の意識という投影機が消滅すれば、その投影像は、全体宇宙の暗在系に没し去る。

 このようにあてどない万物事象の所有権を、あれこれ主張してみても、所詮は我々の意識が継続する間のことであり、意識の投影機が消滅(一般には臨終)すれば、これらの万物事象は泡のごとく消えてしまう。

 粗末な庵で生涯を過ごした良寛が、慈しんだ貞心尼へ遺した辞世の句、「かたみとて 何残すらむ 春は花 夏ほととぎす 秋はもみじ葉」は、このような、この世の「うつせみの構造」を、彼がよく悟っていたことを物語っている。
 良寛が愛したこの世の万物事象は、彼の意識がこの世に創りだした、「彼の意識の所有物」であり、この世の「形見」なのである。

 このように、この世に実在化している万物事象は、全体宇宙である可能性の海から、我々の意識の投影機により、投影された投影像の、ほんの一例にしか過ぎない。

 可能性の海としての暗在系には、意識できる限りの、あらゆる可能性が含まれているのであり、言うなれば「打ち出の木槌」なのである。
 打ち出の木槌などというものは、この世には無いと、我々は考えているのであるが、まさに可能性の海である暗在系は、この打ち出の木槌に匹敵する。

 そして、その打ち出の木槌を振るうのは、あなた自身の意識なのであり、つまるところ、万物事象の所有権とは、「あなた自身の意識の所有権」なのである。

 依って、この世での、最大、最強の資産とは、「考える頭脳と思う心」となる。

2003.6.25

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