Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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人間の消滅
 シュレジンガーの波動方程式で考えるかぎり、現実世界に実在化していた人間が、消滅(通常、この世では臨終と言われる)することは、波動関数を収縮させる観測(意識化)が行われなくなった状態であると考えられる。つまり、現実宇宙に顕れた「粒子性としての人間が消滅」し、全体宇宙での「波動性としての人間に回帰」する構図である。

 物質は「粒子性」と「波動性」の2つの性質を内蔵しており、粒子性を観測したとたんに、波動性は消滅し、波動性を観測したとたんに、粒子性は消滅する。

 意識化されなくなるとは、現実世界を実在化させる、波動関数を収縮させる観測者としての機能が喪失した状態である。簡潔に言えば、何を見ても、意識が働かず、無意識、無感動の状態である。哲学者ニーチェが提示した、闘わず妥協し、可もなく不可もなく生きる「末人」の状態がこれにあたる。
 現代人がその末人に近づいていることは、観測者としての機能が低下し、波動関数の収縮が有効に行われなくなりつつあることを意味し、ともなって、新たな現実世界が実在化しにくくなりつつあることを意味する。

 現実世界である「この世」で、人間が人間として実在し続け、万物事象が万物事象として実在し続けるためには、常に明確な意識を持ち、現実世界を確定する波動関数を収縮し続けなくてはならない。
 物質である人間が、この世で粒子性を保ち、かつまたその周りに粒子性として顕現している美しき自然世界に存在し続ける手だてはこれ以外に他にない。

 もし、かかる人間が明確な意識を保てなくなれば、収縮していた現実世界であるこの世は粒子性を失い、波動性に転化し、全体宇宙に回帰する。それはまた、とりもなおさず、「人間の消滅」であることを、シュレジンガーの波動方程式は教えている。

2003.6.19

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