Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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物語の元型
 「編集工学」とは編集工学研究所の松岡正剛氏が提起する時空間の編集的研究である。

 松岡氏は著書「空海の夢」以来、注目してきた作家である。最近の著書が「知の編集工学」であり、その中で表題の「物語の元型」について述べている。

 この世で語られて来た、そして語られている物語の構図を究極まで突きつめると「2つの世界」とその間に引かれた「1本の線」という「元型」に行き着くと言う。
 2つの世界とは例えて言えば、「男と女」の2つの世界であり、「明と暗」の2つの世界であり、「A部族とB部族」の2つの世界であり・・等々である。
 1本の線とは例えて言えば、「川」であり、「丘」であり、「山」であり、「谷」であり・・等々である。

 物語とはすべて、この2つの世界である男と女、明と暗、A部族とB部族・・等々が1本の線である川、丘、山、谷・・等々を挟んで対峙する構図で構成される、葛藤であり、闘いであり、協力であり・・等々である。
 この構図はあらゆる物語の根底に潜在する「物語の元型」である。

 この「物語の元型」こそ、私が言う「Pairpoleの狭間」の構図である。宇宙に内在する根源的な対称性は「Pairpole」であり、その対称性はその「Pairpoleの狭間」で破れている。

 物理学が追求するのは、この「対称性が破れている」特異点解析が中心課題であるが、それは「Pairpole」においても同様であり、「Pairpoleの狭間」は「何事かが発生」し、「何事かが消滅」する空間である。
 実空間発生の過程で言えば、「行きの意識である創造意識」と「帰りの意識である破壊意識」が作用する空間であり、実空間が前進し、過去と未来が発生する空間である。

 対称性が破れているこの「Pairpoleの狭間」に、意識世界を語る「物語の元型」があることは、これらのことからすれば「必然的帰結」であろう。

 「Pairpoleの狭間」はまた知的ツール「Wavecoil」の螺旋循環メカニズムが述べる「波動運動」における2つの特異点である。この波動運動は陰と陽の2重螺旋運動であり、この2重螺旋運動を支配する法則は陰波動と陽波動を合成すると「0」になるという「エネルギ保存の法則」である。
 この法則は実空間の出来事で述べれば、私が言う「禍福一体の法則」と呼ばれるものである。我々が日頃、実空間であるこの世で経験する出来事はすべて「人間万事塞翁が馬」的な帰結をもっている。つまり、「禍と福が一枚の紙の表裏のように一体的」に構成されるのである。

 物質運動で述べる「エネルギ保存の法則」とは、物質エネルギは姿形を変えて変転しても、変化の前後でエネルギの総和は常に一定に保たれるという法則である。
 意識運動で述べる「禍福一体の法則」もまた、意識エネルギは姿形を変えて変転しても、変化の前後でエネルギの総和は常に一定に保たれる。
 換言すれば、禍と福を合成すればいつも「0」になるということである。この帰結が人間に「この世では何をしても結局は0である」という「ニヒリズム(虚無主義)」をもたらすこと、またこのニヒリズム脱却の道が「Pairpoleの狭間」にあることは前述した。

 ゆえに、物語はすべて、このニヒリズムを脱却しようと画した人間の挑戦の記録である。人類は古代より、この「Pairpoleの狭間」を知っていたのであり、知っていたがゆえに、そのニヒリズム脱却に挑戦してきたのである。

 そして今後も、男と女のPairpoleの狭間に、明と暗のPairpoleの狭間に、AとBの異質性のPairpoleの狭間に・・人類のあくなき挑戦は続いて行くであろうし、その中から、また無数の物語が生まれてくることに違いはないのである。

2003.1.27

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